Hochdruck 「高気圧」と Tiefdruck 「低気圧」

大久野島

この記事は、もともとは引っ越し前のサイトにて2021年3月28日に「高気圧と低気圧」のタイトルでアップロードしていたものです。このたびサイトごと引っ越しするにあたり、細部に手を加えてアップロードし直しました。

高気圧と低気圧

ドイツ語では高気圧と低気圧は、それぞれ Hochdruckgebiet (n. -(e)s/-e) / Tiefdruckgebiet (n. -(e)s/-e) と呼ばれます。(ここではスラッシュを挟んで両者を並べています。以下も同様です。)それぞれの後半部分 Gebiet (n. -(e)s/-e) は「領域」を意味する言葉ですので、直訳すると「高気圧領域」 / 「低気圧領域」でしょうか。

前半部分はそれぞれ「高圧」 Hochdruck (m. -(e)s/-e) / 「低圧」 Tiefdruck (m. -(e)s/-e) を意味する言葉ですが、それぞれ単独でも「高気圧」 / 「低気圧」の意味で使えます。

通常はさらに短く Hoch (n. -s/-s) / Tief (n. -s/-s) と呼ばれ、天気図上では頭文字だけでそれぞれ H / T と表記されます。

どちらについても、それぞれの気圧系の影響が及ぶ範囲のことだと考えることができます。その影響のことを表す場合、 Einfluss (m. -flusses/-flüsse) 「影響」を付加して Hochdruckeinfluss / Tiefdruckeinfluss のように呼ぶことができます。これらもよく見かける単語です。

なお、高気圧や低気圧は、どれも固有の成因・構造を持ち、閉じた等圧線とその形状によって周囲からは多少なりとも独立しているとみなせる気圧システムですが、それらの両方を包摂する概念としては、 Druckgebilde (n. -s/-) もしくは Drucksystem (n. -s/-e) などという語がよく使われます。これらは高気圧と低気圧の両方を区別なく指示できる、いわゆる上位概念 Oberbegriff (m. -(e)s/-e) です。どちらも日本語では「気圧系」「気圧システム」などの語で訳されている場合が多いようです。ざっくり「高・低気圧」と呼んでしまっていい場合もあるかと思います。

渦を巻く方向による名称

一方、広範囲に及ぶ気流の回転方向に基づいた名称が用いられることもあります。その場合、低気圧は Zyklone (f. -/-n) 、高気圧は Antizyklone (f. -/-n) と呼ばれます。これらには形容詞形もあり、反時計回りの (gegen dem Uhrzeigersinn) 曲率で流れている低気圧性の気流は zyklonal と形容され、逆に時計回りの (im Uhrzeigersinn) 曲率で流れている高気圧性の気流は antizyklonal と形容されます。(共に北半球で、上空から見た場合。南半球では曲率の向きが逆になります。)どれも気象を扱う文章では割とよく見かける単語です。

熱帯低気圧

なお、男性名詞として Zyklon (m. -s/-e) という語もあるのですが、こちらはインド洋などで発生する熱帯低気圧「サイクロン」のことです。複数形は Zyklone となり、低気圧性の渦巻きを表す女性名詞 Zyklone と同形になるのが多少ややこしいっちゃあややこしいかもです…

サイクロンを含む熱帯性の嵐 tropischer Wirbelsturm (m. -(e)s/-stürme) は、発生域や強度に応じて様々に分類されています。勢力の分類基準は予報機関ごとに少しづつ異なるためここでは詳しくは触れませんが、勢力の強いものとしては他にも Hurrikan (m. -s/-e, -s) 「ハリケーン」や Taifun (m. -s/-e) 「台風」などがあります。

[余談ですが、「ハリケーン」を意味するドイツ語 Hurrikan は、英語風に「ハリケン」と発音されているようです。その場合の複数形は Hurrikans です。一方ドイツ語読みにもう少し寄せた「フリカン」という発音もありますが、そちらの場合の複数形は Hurrikane とのことです。(小学館『独和大辞典』 p.1088 )]

男性名詞としての Zyklon 「サイクロン」は、ひょっとすると綴り字と複数形語尾をこれら他の地域の熱帯低気圧である Hurrikan (m. -s/-e) 「ハリケーン」、 Taifun (m. -s/-e) 「台風」と合わせたのでしょうか…よく分かりませんが。

中部ヨーロッパへ接近する「元・ハリケーン」

ドイツを含む中部ヨーロッパ領域にハリケーンが直接接近・上陸することはありませんが、ハリケーンから温帯低気圧 außertropisches Tiefdruckgebiet (n.) へと変質した「元・ハリケーン」 Ex-Hurrikan に襲われることはあります。この Ex- という要素をハリケーン(だったとき)の固有名に付加して「 Ex- (固有名)」という呼び方がされることも多いです(必ずハイフンを間に挟みます)。

地中海で発達する亜熱帯低気圧

また、地中海でもまれに熱帯低気圧と類似した構造を持つ低気圧が発生することがあり、ドイツ語でも英語の語形をそのまま用いて Medicane (m. -s/-s) と呼ばれています。

これは読んで字の如く「地中海で発生するハリケーン」で、語形は Mediterranean sea と hurricane のそれぞれ前半部と後半部をくっつけて作られています。

[このような語形成法によって作られた語は、かばん語 portmanteau word と呼ばれます。ドイツ語の用語だと Kofferwort (n. -(e)s/-wörter) と言うようです。]

性質的には熱帯低気圧と温帯低気圧の両方の側面を持っており、秋頃、偏西風が南へ蛇行して出来た上層の切離低気圧、いわゆる「寒冷渦」 Kaltlufttropfen (m. -s/-) (字義:寒気のしずく)が地中海方面へ進んでくると、その上層の寒気と、まだ温かい地中海の海面から熱や水蒸気の補給を受けた下層大気との間で対流活動が活発になり、移動とともに熱帯低気圧のような構造へと発達します。

勢力は強くはなく、寿命も短いことが多いのですが、衛星画像で見ると、しばしば中心部分に雲のない領域(目 Auge (n. -s/-n) )とアイウォール、周辺部分にスパイラルバンドを確認することができます。

これは台風についても言えることですが、ハリケーンは温帯低気圧へと変質した後、再発達してより広範囲に荒天をもたらすことがあるため、注意が必要です。

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